今年6月に刊行された東川 仁氏の『お客は銀行からもらえ!-士業・社長・銀行がハッピーになれる営業法』が、発売から1か月経過した現在でもamazonの人気ランキング「銀行・金融」および「企業・開業」ジャンルにてトップ10にランクインしています。
本書がこれまでの士業ノウハウ本と大きく異なるのは、「士業―顧客」という関係を考える際に「銀行」という新しいプレイヤーを入れた枠組みを示した点と言えそうです。なぜ東川氏は「銀行」との関係性に注目したのでしょうか?
今回は著者である東川仁氏にお話を聞かせていただきました。以下、インタビューです。
『お客は銀行からもらえ!』の東川仁氏へインタビュー
『お客は銀行からもらえ!』に示されているノウハウの構築について
――本書に書かれているノウハウの構築はどのように進められたのでしょうか?
一つ一つです。もともと金融機関に身を置いてはいましたが、金融機関に営業をかけてくる士業なんてほとんどいませんでしたから。きっかけとなったのは「資金調達コンサルタント」として活動していたときに、セミナーを受講してくださっていた税理士さんを手伝ってリスケの案件で金融機関に行きました。ところが翌日にその金融機関から電話があって「こんなお客さんがいるんですけど、昨日のお客さんと同じようにやっていただけませんか?」と。
それで銀行さんに営業をかけて顧客を紹介してもらうことができるのだ、と初めて気づきました。そこからいろいろな金融機関を回るようになり、8人の担当者のうち1人くらいの割合で顧客を紹介してもらえるようになりました。
――ノウハウの全体像ができあがるまでの期間はどれくらいでしょうか?
2003年から徐々に進めていったという感じなので、やはり7,8年はかかりました。
『お客は銀行からもらえ!』を書籍化した経緯
――ご苦労の上に築いたノウハウを書籍として公開しようと考えたわけは?
士業が銀行といい関係を築くことで一番のメリットを享受できるのは中小企業だと思っています。だから士業はもっともっと銀行との距離を縮めるべきだと思っています。そうすることで、経営がうまくいっていないたくさんの中小企業にメリットを受け取ってもらえますから。
そもそも私自身がもともとは金融機関職員でした。勤めていた信用組合が破たんしたときに、融資できずに倒産してしまった中小企業が数社あったのですが、「金融機関との付き合いさえ知っていればつぶれずに済んだのに…」という思いがありました。
だからできるだけ多くの中小企業に銀行との付き合い方をコンサルティングするという思いで独立したのですが、いざ独立して数々の企業のコンサルティングを引き受けるとすぐに手がいっぱいになり身動きがとれなくなってしまいました。
セミナー講師などをやってもノウハウが「広がる」という意味ではパッとしませんでした。なので書籍化には自分のノウハウを広めたいという思いが根本にあります。
――せっかく築いたノウハウを「自分だけ」のものから手放すことに心理的な抵抗などはなかったでしょうか?
困っている中小企業の方がたくさんいる状況で、僕だけノウハウを独占する意味がないでしょう。またノウハウを公開することで、実際にそのノウハウを試した方からフィードバックをもらえるようになります。つまり「この場合はどうしたらいいですか?」という質問自体が「ノウハウ」になっていくわけです。逆にノウハウは自分のうちにだけに囲い込んだ時、劣化が始まります。ノウハウはオープンにすることでさらなる進化/深化を遂げることができるんです。
――本書に書かれているようなノウハウが進化した先にはどのようなものがあるのでしょうか?
「融資に強い税理士養成講座」と「融資に強いFP・士業養成講座」をずっとやっているのですが、こうして融資に強い人材を育て、実際にも仕事をとってもらっています。近々社団法人を立ち上げる予定なのですが、そこではこうした融資に強い士業をネットワーク化して、銀行や商工会議所とつなげることを考えています。
市場分析における「第三のプレイヤー」への視点
――本書に書かれている「企業―銀行―中小企業」という関係性は「B to C」や「B to B」という二者間に限定した取引で市場をとらえるのではなく、「第三のプレイヤー」を介在させるという枠組みがとても興味深く感じました。こうした「三者間の取引」という発想は他業種にも応用できるでしょうか?
応用できます。そもそもこうした取引を三者間のものとしてとらえる考え方は昔からあります。つまり近江商人の心得の「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」ですね。
――実際に東川さんの顧客の中で士業ではない方にも応用されているケースはありますか?
ありますよ。「この人とこの人をつなげたら、相乗効果が生まれておもしろい世界が開けるんじゃないか?」ということをよく考えるのですが、そのときの僕は人材のHUBというイメージでやっています。もちろんそこには双方に「喜んでもらいたい」という思いがあるのですが。
具体例を挙げると、僕のクライアントにあるメーカーの下請けをやっている企業がありました。その企業がもつ技術は高くて結構精密なものでも作れるという感じだったのですが、元請け企業のメーカーが海外移転となり仕事がなくなってしまいました。一方で医療品の輸入卸売をやっている業者さんがいたのですが、医療品の「部品」を海外から取り寄せるのはコストがかかり、こちらもまた悩まれていました。そこでこの「部品」の製造の話をもっていくと元々もっている技術の高いところでしたから「部品」を提供できるようになったのです。そこから一時期仕事が0になった企業が盛り返して、今では元請けをやるほどの大きな企業に成長しました。
「動くこと」。そしてネットワーク
――特に若い世代などには本書に書かれているような「銀行」を訪問したり、人とのネットワークを築くことに「恐い」とか「重い」など消極的になってしまう感性もあるんじゃないでしょうか?
もしこうしたネットワークを築くことを「重い」と避けてメシが食えてるなら問題ないですよ(笑)でも現状に閉塞感を感じているなら、行動を変えるしかありません。本書はなんらかの行き詰まりを感じている人が「行動」を起こすきっかけになる本という目的で作っています。
そもそも人って会ってみないとわからないでしょう?銀行の担当者など人と会えばイヤな思いをするかもしれないけれど、いい思いをするかもしれない。仮にイヤな思いをしても「こういう日もあるのかな」と開き直ることも必要じゃないでしょうか。少なくとも僕がよく言っているのは「待っているだけだと運命は変わらない」ということです。
例えば僕は商工会議所によばれる講師オーディションに主催しています。このオーディションに「エントリーする/しない」が「行動する/しない」になります。こうした行動をすればチャンスは広がっていくかもしれません。でも行動しない限りチャンスは0のままです。
僕自身がコンサルトをやっているわけですが、「動く人」だからコンサルティングができるということがあります。どれだけこちらが頑張っていいコンサルティングをしても、実際に行動してもらえないなら変わりません。なので僕はどれだけお金を積まれようが行動しない人のコンサルティングはやりません。
――逆に自分が手がけたクライアントの業績が上がったときは?
それはめちゃくちゃ喜ばれますよ。コンサルタントのモチベーションは「ありがとう」と言ってもらえることです。ゼニカネじゃありません。お金って後からついてくるものですから。
――(後篇に続く)
(※本記事は7/16日にアップされ、一部事実の誤認があり訂正されたものです。読者のみなさま、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます)
【著者紹介】
東川/仁(ひがしかわ じん) 氏
1964年、大阪府に生まれる。株式会社ネクストフェイズ代表取締役、盛繁士業プロデューサー。中小企業診断士、経営コンサルタント。関西大学卒業後、地元の金融機関に入社。2002年、資金調達コンサルタントとして独立。数多くの金融機関に対する研修やコンサルタントも行っており、金融機関の考え方は熟知している。現在は、士業やコンサルタント・FPに対し、「融資に強い専門家」になるための知識やノウハウを伝えるべくセミナーや講座を積極的に行っている。
(※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
株式会社ネクストフェイズHP:http://www.npc.bz/