マーケティングの世界が激変しています。
企業主導の広告戦略で成り立っていた方法に代わり、顧客が企業の情報を取捨選択し、自らの意思で企業側へ近づくという方法が、新たにマーケティングの主流になろうとしているのです。 アウトバウンドからインバウンドへの変化は、中から外へというアプローチの流れが外から中へと変わる、180度の転換。いわば、発想の大逆転です。
インバウンドマーケティングとはいったいどんなものなのか。
それは士業業界にとって、歓迎すべき変化なのか。
変化をチャンスに変えるために、いま押さえておくべき基本事項をご紹介します。
アウトバウンドからインバウンドへ激変するマーケティングの世界
いま、マーケティングの世界はアウトバウンドからインバウンドへの劇的な変化の渦中にあります。これまで王道だったマーケティング手法であるアウトバウンドマーケティングは、企業が顧客に向けて、企業に都合のよいタイミングで伝えたい情報を一方的に送り出すというものでした。これに取って替わろうとしているのが、何かの情報を知りたい、調べたいと思った顧客側が、検索というアプローチの過程で企業を見つけ、自らの意思でやってくるというインバウンドマーケティングです。
“インバウンド(inbound)”は「内側や中心へ向いた、入ってくる」という意味の英語ですが、“インバウンドマーケティング”という言葉を最初に使いだしたのはアメリカのHubSpot(ハブスポット)という会社です。インバウンドマーケティングのためのソフトを開発し、創業者2名による著書『インバウンドマーケティング』がベストセラーとなったことで、世の中に認知されるようになりました。
日本では2011年にこの著書が発行され、2013年後半には大きく拡散しはじめました。その勢いはますます増し、今ではマーケティングの主流になりつつあるほどになったのです。
いかに受け手にとって有益な情報を探しやすく準備できるかが肝
“ネットで検索する”という行為が日常的になるにつれ、人々の情報に関わる行動は大きく変わりました。それまでは、情報は新聞やテレビ、ラジオ、雑誌などのマスメディアがピックアップしたものを受け取るのが主な手段でした。それがいまや、人が何か行動を起こそうとするとき、まずはパソコンやスマートフォンなどの端末を使って「インターネットで検索して情報を得る」という行動が当たり前になっています。
さらに、信頼のおけるソースを選び出し、そこからトレンドやおすすめ情報を仕入れ、得た情報をソーシャルメディアを通じて評価し、拡散(再発信)するなど、情報に対してこれまでになく能動的になっているのです。
つまり、情報の取捨選択は受け手であるお客側が決めるのが今の常識であり、情報の送り手である企業側が受け手が望んでもいないものを送ると、無視されるのはいいほうで、下手をするとうるさがられ、嫌われ、最悪な場合はその悪印象を広められる可能性もあるのです。企業が注力するのは、情報を探している人にとっていかに有益な情報を、いかに探しやすく準備できるかということ。これが、インバウンドマーケティングの基本の考え方です。
顧客が求めていた相談先に出会える、win-winの関係性を築く
では、士業業界にとってインバウンドマーケティングが主流となることはどんな意味があるのでしょうか。
多くの一般企業にとっては、買ってもらいたい商品の情報を買ってもらいたい時期に受け手に流すというアウトバウンドマーケティングが主流であったため、今回のトレンド変化は発想の転換を迫られる劇的なものとなるでしょう。しかし、もともと士業業界では、顧客は「依頼先を探している人」であり、自分たちの強み(得意分野、専門分野)を打ち出し、それを求めている人に見つけてもらうというインバウンディングマーケティングのスタイルは非常になじみやすい手法です。
ただ、士業業界では、「待っていてもお客さんが来る」時代が長かったため、アウトバウンドマーケティングすら経験したことがないところが大半で、最近では一般的になったWEB集客においてもホームページを開設しただけで、やはり「待っている」状態になっているところが少なからずあります。こうした旧来のスタイルでは、競争が激化している今の時代には顧客を惹きつけることは難しいと言わざるを得ません。
インバウンドマーケティングの世界では、積極的に、受け手にとって本当に役立つ情報を発信してゆくかが問われています。
たとえば、相続税について相談できる事務所を探して検索中の人がいるとします。 「品川 相続税 相談」というキーワードを打ち込んで検索した結果、いろんな士業事務所の情報がずらりと表示されました。
最初に表示される画面に、自分たちの事務所の情報が入っているでしょうか。 さらに、3行ほど示される情報の中に、「見てみよう」とクリックさせるだけの魅力あるフレーズが散りばめられているでしょうか。 「無料メール相談」の窓口を設けたり、「相続税の相談をする前に知っておくべき税理士選びの3つのポイント」といった記事を掲載したり、見た人が思わずクリックしてしまうような工夫の仕方はいくらでもあります。
自分たちの強みや個性を検討し、どんな顧客に来てもらいたいかを絞り、そこに向けた効果的な施策を考えぬき、実践し、修正を重ねてクオリティアップしてゆく。そうすることで、企業規模や資本力に関係なく、たとえ、始めたばかりのサービスであっても顧客を呼び込むチャンスをつかめるのです。
ニーズに合う相談先にめぐり合うことは、顧客にとってもうれしいこと。いま主流になりつつあるインバウンドマーケティングの手法をうまく活用し、企業側、顧客側双方が満足のゆく、win-winの関係性を築いてゆきたいものです。
今回のまとめ
- 企業から一方的な情報の押し売りをする時代は終わり、顧客側に選択してもらえる情報をいかに準備するかというインバウンディングマーケティングがこれからのトレンドとなる。
- 課題を抱え相談先を探している士業業界の顧客には、インバウンディングマーケティングの手法はマッチしやすい。
- 努力次第で、資本力やこれまでの実績に関係なく、顧客、企業、双方満足のゆく関係性が築ける。