すでにご存知の方も多いとは思いますが、2016年4月1日より『障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律』が施行されます。
2013年には『障害者総合支援法』が施行されており、当時は障がい者(児)の範囲に難病の方が加わり、障害福祉サービスの利用が可能になりました。また「障害支援区分」が創設され、障がい特性や心身の状態に合わせて必要とされる標準的支援の目安を総合的に提示・区分できるよう改正されました。そのほか、障がいをお持ちの方への支援について重度訪問介護や地域移行支援の対象が拡大され、ケアホームのグループホームへの一元化も、段階的に実施されたところでありました。
同年以降、民間企業の法定雇用率も従来の1.8%から2.0%にまで引き上げられ、当時それまで対象外だった従業員数50人以上56人未満の事業主も障がいをお持ちの方の雇用が求められるようになりました。
実際の現場においては、これまでもハローワークでは窓口を設置し、専門の職員・相談員が、求職申し込みから就職後もケアを担当しており、関係各所もハローワークと連携・協力体制を整えて障がいをお持ちの方の就労をサポートしているようです。
この流れから法改正は必然であったといえそうです。これより障害者雇用促進法の改正情報についてお伝えします。
障害者雇用促進法改正でどのように変わるのか?
今回の法改正の大きなポイントは、
- 障がいをお持ちの方に対する差別の禁止
- 合理的な配慮を行うように義務付け
- 苦情処理・紛争を解決できるように援助する(努力義務)
の3つです。
まず障がいを理由として採用を拒否するなど募集・採用の機会において差別をしたり、研修の拒否、休憩室を利用させないなど教育訓練や福利厚生を受ける機会を奪ったり、賃金を低く設定したり昇給させないなどの不当な取り扱いを禁止しました。
また募集・採用時に、例えば採用試験の問題を点訳・音訳するなどの配慮、採用後、通勤や勤務時間、職場の環境、指示内容や相談員の配置など理にかなった配慮を行うよう法律で明記されました。ただし事業主が過重な負担をしない範囲でです。
これらについて必要があると認めた場合は、厚生労働大臣から事業主に対し助言や指導、勧告が実施される見込みです。
そして苦情処理や紛争解決援助については、社会保険労務士や弁護士、司法書士、行政書士が積極的に関与できそうな部分だと考えます。次の章で詳しく解説をしたいと思います。
士業へのニーズ高まる?働きやすい職場環境づくりと労使意見相違の統合
どうしても仕事には合う・合わないがあり、誰にでも起こりうることですし、どのように環境を整備すればベストなのか?どのような指示がわかりやすいのか?など本人でなければわからない部分です。また、いわゆるブラック企業が障がいをお持ちの方を雇用していないとはかぎりません。
個人的には、
- 苦情ではなく「働きやすくしてほしいという要望」
- 紛争ではなく「意見の相違」
だと考えるのですが、改正法では自主的に解決する努力をしてほしいと明記しました。どうしても解決しない場合は、都道府県労働局の紛争調整委員会において話し合われるようです。
士業は、上記自主的解決において2つの選択が予想されます。それは「会社の顧問として事業主側をサポートをする」か、「依頼を受けて労働者側のサポートをする」かです。
本来は、ADR(裁判外紛争解決手続)業務のように法律や慣例に基づいた中立的立場をとれるのが理想ですが、依頼人がいる以上それはむずかしいところです。
労働条件や職場環境が問題であれば主に社会保険労務士。人権侵害や金銭問題といった法律トラブルであれば、主に弁護士、司法書士・行政書士も職域の範囲で関与できそうです。
士業サイドから顧問先・お客様に法改正に絡んでアドバイスしてほしい3つのこと
【1】顧問先には障害者雇用納付金の申告についての助言を
厚生労働省などの周知徹底もあり、会社の人事担当者がしっかりと押さえているポイントではあると思いますが、4月から平成27年度の障がいをお持ちの方の雇用数をもとに障害者雇用納付金の申告を行わないといけません。特に法定雇用率を達成している顧問先には、申告が必要だと助言すべきです。法定雇用率を下回れば、その分を納付しなければなりませんが、上回れば逆に調整金がもらえるからです。
常時雇用労働者が200人を超える事業主は、法定雇用率を上回る数に応じ1人あたり月額27,000円の障害者雇用調整金が支給されます。また常時雇用労働者が200人以下の事業主は、一定数を超えて雇用している人数に21,000円をかけた額の報奨金が支給されることになっているようです。
【2】法定雇用に必要な措置を講じると場合によっては助成金がもらえます
例えば、障がいをお持ちの方のための作業施設や福祉施設の整備、介助、ジョブコーチの配置、重度障がい者などの通勤について対策を講じた場合など、要件が合えば助成金がしっかりともらえます。今回の法改正は、事業主に負担を強いるだけではないといえます。
【3】すべての事業者が該当、『障害者差別解消法』も同日施行
ここまで見ると従業員50人以下の事業主は関係ないと思われがちですが、同日『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』も施行されます。この法律では、事業者が全ての障がいをお持ちの方に対して合理的配慮を提供しなければならないと定めています。会社やお店の事業所はもちろん、ボランティアを継続して行っているグループも対応が必要となります。なかには同法の施行を知らない経営者もおられるかもしれませんので、顧問先には参考情報として念のためお伝えすべきかと思います。
合理的配慮とはいっても人によって受け取り方はさまざまでしょうから、具体的にどう対応すれば良いのか判断に悩むところです。
そのようなときは内閣府の具体例データ集「合理的配慮サーチ」が役に立つと思います。このようなサイトがあるとお伝えしておくだけでも、顧問先のサービス向上につながり、合理的配慮にまつわるトラブルを回避できる可能性が高くなります。
この合理的配慮は、個人事業主もしくは法人成りをされている士業の先生方も例外ではありません。
▼合理的配慮サーチ
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/
■著者紹介
ITC代表 石盛丈博氏
(2002年~2010年まで行政書士登録)
まとめ
- 事業所は労使関係だけではなく取引・営業関係でも合理的配慮が必要となる
- 顧問先やお客様に助言すべき士業の先生方もまた例外なく合理的配慮が求められる