円安効果で日本企業による海外進出の出足が鈍るかと思えば、今年平成27年の外務省の調査では前年比+4,796拠点(約7.5%)で過去最多記録をマークしました。特に目立つのがアジア圏へ進出する企業で、これら新興国市場への進出マインドの高さを表す一例と言えそうです。
こうした企業のグローバルな活動は、同時に士業ニーズが生まれるところでもあります。今後さらに企業の海外進出による士業ニーズは拡大していきそうですが、その最前線で活躍している士業の人物像は一体どのようなものなのでしょうか?
そこで今回は司法書士資格を取得して2年後には「コネなし、カネなし」の状態から独立開業。わずか2年で司法書士4人体制の規模まで拡大し、現在は日本とマレーシアを法務面から結ぶコンサルタントとしてマレーシア(クアラルンプール)に拠点を構える司法書士熊木雄介氏にお話をうかがいました。
「日本―マレーシア」を結ぶ司法書士の「仕事」術
ラブアン保険ライセンス会社のためのマネジメントサービスを提供している会社ともミーティングしてきました。キャプティブは面白いですね。 pic.twitter.com/OTazjiA7IX
— 熊木 雄介 in Malaysia (@kumaki1981) 2015, 11月 13
――熊木さまのプロフィールを拝見して、司法書士として独立されるときの思い切りのよさですとか、日本とマレーシアをつなぐ法務サービス提供を成立させる行動力などに感銘を受けてしまいます。そこでまずは熊木さまのモチベーションとなっているものからお聞かせください。
思い切りの良さや行動力を褒めていただくことがあるのですが、私としては単にその時その時で自分に合った一番ベターに思える選択肢を選んでいるだけで、あえて難しい選択肢に挑戦したとかそういう認識はありません。日ごろ積み重ねてきたことの延長が独立だったり、今のマレーシア関連の仕事だったというだけです。
基本的に仕事に対するモチベーションは高いほうだと思います。オンとオフの切り分けというものもほとんどなく、基本的にはほとんどオンです。それでも今のところ疲れるといことはありません。それは基本的に今まで全て自分で仕事や働き方を選択してきたからであって、イヤイヤやっている仕事というものがほとんどないからだと思います。
また仕事というのは自らしんどい経験をすることこそが将来自分の経験値を高め、よりよいコンサルティングをクライアントに提供できるようになるための源です。
なので本当につらい時期ももちろんありますし、精神的に負荷がかかる仕事ではあるのですが、それらもポジティブに転換しやすいところも助けられているのだと思います。
――「やりたいこと」と「仕事」が一致しているということでしょうか?
仕事観というか人生観として、24歳で神戸で自分の事務所を開業したときから思っていましたが、せっかくの人生なのでできれば色々な場所で色々なことに挑戦したいと思っています。
あと自分の会社を大きくしていくことよりも、自分自身の専門職としての能力を高めたいという意欲の方が強いです。これは人を雇ってみてから気づいたことなのですが、日本で自分の事務所をやっていたころは何人か司法書士を雇って、人を育てる側に回ってみたこともあります。
でも正直に言うと、雇っている司法書士が成長することに対して嬉しいという感情よりも、専門家として負けたくないという感情の方が大きかったですね。どちらかというと人を育てることよりも、自分が成長することに喜びを感じるタイプのようです。
そういう自分の性質に気がつき、自分の事務所や会社を大きくしていく方向性というのはひとまずやめることにしました。まあもう少し年齢を重ねて自分に余裕がでれば考えが変わってくるという予感はありますので、そのときにはまた組織を大きくすることや人を育てることに挑戦したいと思っています。
――「司法書士」業務についてはどのようにお考えでしょうか?
司法書士の資格者としての今後についても色々と考えています。ただ自分の場合、司法書士として一流になりたいというよりも、司法書士という仕事を通して得た特性や考え方を武器としつつも、司法書士の専門性以外にもうひとつふたつの専門性を掛け合わせたコンサルタントになりたいと思っています。
それが今のところ海外でのビジネスコンサルティングだったり、あと日本で独立開業したときから自己流で追及してきたインターネットの使い方だったりします。
マレーシアでの司法書士業務について
ラブアン現地の提携先のオフィスより。 pic.twitter.com/iK7wdUdrBg
— 熊木 雄介 in Malaysia (@kumaki1981) 2015, 11月 12
――マレーシア・ラブアン関連の司法書士業務として、現地側/日本側それぞれからのニーズが高いものはどのような依頼が多いのでしょうか?
現地の法律事務所や会計事務所の協力のもと、日系企業のマレーシア進出や日本人のマレーシア移住のお手伝いをしています。法人設立、許認可取得、ビザの取得、契約法務などです。現地会計事務所との間に入り、会計・監査・税務などをサポートさせていただいている企業様もあります。
日本からだけでなく他のアジア諸国、つまりシンガポール・タイ・中国等の日系企業・日本人からの依頼も多いですね。また、日本国外居住者を対象として、マレーシア国内のラブアンというビジネス・金融特区の制度を利用した資産管理や資産承継に関するコンサルティングもしています。
逆にマレーシアから日本へという仕事は、私自身があまりその点についてはあまり情報発信していないこともあり、それほど多くありません。
ただ、マレーシアや海外から日本へという流れの仕事に興味がないわけではなく、日本から海外へ出ていく企業や個人が増えていけば増えていくほど、海外から日本への流れも多くなると思っています。なので今やっている活動は日本から人やモノを出す仕事ではなく、長い目でみると海外から日本へ流れ込む人やモノを増やす仕事でもあると考えています。
――そうした業務上前例のないものにも取り組む機会が多いかと思いますが、自分の手で切り開かなければなならい状況の乗り越えかたなどのヒントはありますか?
司法書士という業界に限ってみますと確かに前例がありませんが、他の業界に視野を広げれば我々の業界に応用できることはたくさんあります。大事なことは前例がないと決めつけないことかと思います。
ブログ『Kumakilog in KL』に関して
(画像引用元:『Kumakilog in KL』より)
――ブログでは熊木さまでしかお書きになれない質の高い情報を発信されていますが、こうした「情報発信→集客」という手法で意識されていることはありますか?
やはり大事なことは目立つくらいの量を書くことだと思います。そしてできれば同業者がまだ手をつけていない分野をひとつ見つけ、その分野の専門家としての地位をインターネット上で確立することです。
インターネットでの情報発信に時間を割くと決めたのであれば、「他の人がまだ書いていない分野で、かつある程度需要が見込めそうな分野」を見つけることにまずは時間を費やすべきかと思います。
ひとつの分野で突き抜けることができれば、それに付随して他の分野の仕事も入ってきます。
――ブログコンテンツのアイデアなどはどのように練られているのでしょうか?
アイデアを得るために大事なことは、他の分野の人と深く話してみたり、他分野の書籍やインターネット上の記事を読んでみたりすることですね。海外で生活をしてみて初めて気が付く日本の一面があるのと同じく、他分野から司法書士業界を振り返ってみたときに初めて気が付く我々の強みやまだ開拓されていない一面に気が付くものです。
マレーシアで「司法書士」として生きるとは?
――昨今では「働きかたの多様化」という話題をよく耳にするようになりましたが、「海外で活動する日本の司法書士」という目線から、司法書士ひいては士業の「働きかた」に関してどのようなにお考えでしょうか?
士業の働き方という点については、まあ人それぞれだと思いますのでこうすればよいということは特にありません。私もそうですが、皆さまそれぞれに得意・不得意がありますのでそれぞれに合ったスタイルをできる限り早く見つけ、それを追及していくことがご自身にとっても、社会にとってもメリットが大きいのではないかと思います。
一方で、苦手なことや不得意なことにあえて挑戦するという生き方・働き方もそれもまた素晴らしいと思います。
――熊木さまご自身はマレーシアに移られてから、「働きかた」という点でどのような変化がありましたでしょうか?
日本での司法書士業に比べますと、マレーシアへの企業進出サポートの仕事ではワンストップサービスがより求められますので、様々な分野の人脈を作るようになりました。また自分自身も今まで以上に他分野の知識習得に励むようになりました。
そしてそれらの各分野の専門家の方との協働でお客様へサービスを提供する、というスタイルが基本となりました。日本でも起業支援の仕事はやっていましたが、求められる情報提供やサービスの幅は全然違いますね。私はもともと色々なことを勉強したくてこの仕事をやっていますので、全く苦にならず楽しいです。
またマレーシア進出支援という分野では、ある程度独自のポジションも確立できていますし、継続的に新規のお仕事もいただけている状況です。なので今ではあまり顧客獲得のために時間や意識を費やす必要もあまりなく、自分の専門性を高めることや現地の最新情報を収集することに集中できています。いい循環に入っていると思います。
――最後に今後の展望に関してお聞かせください。
将来的には、マレーシアへの進出コンサルティングだけでなく、他の国々についても詳しくなり、各国現地専門家の人脈もつくり、より幅広いコンサルティングを提供できるようになりたいと思っています。
人物紹介
熊木雄介司法書士
職業:司法書士、マレーシア進出に関する法務コンサルタント、会社経営
役職、所属団体等:
KS Global Solutions Sdn. Bhd. Managing Director
司法書士法人F&Partners
株式会社熊木総合研究所 代表取締役社長
大阪司法書士会会員
渉外司法書士協会会員
司法書士登録:平成16年
(※プロフィール欄より転載)
■Malaysia Experts.net:http://jm-experts.net/
■『Kumakilog in KL』(ブログ):http://kumakiblog.com/
■twitter:https://twitter.com/kumaki1981/