「士業に対する需要はどこにある?」と問いに、士業を生業にしておられる方は「どういう顧客がどういう需要をもっているか?」ということまでこれまでの経験則や顧客名簿から把握しておられることでしょう。
しかし一般生活者の需要は時に思いもかけない足もとに転がっていることもあります。「誰かの不満はビジネスチャンス」ではないですが、専門家だからこそ見えにくい需要は事業や集客に新しい視点を与えてくれるヒントにもなるかもしれません。そこで今回は「一般生活者はどのような士業に関連する需要を感じているか?」を調査しました。
(※調査方法は「Yahoo!知恵袋」の税・法律・労働に関するカテゴリからそれぞれ1,000程度の質問文を抽出し、テキスト解析を行いました。)
税・会計に関する士業需要調査
税や会計関係の質問から頻出した名詞のTOP10です。
もっとも頻出した名詞は「年金」(141回)で、一般生活者にとって主要な悩みどころであることがわかります。この「年金」のワードを含む質問文を詳しく見ると、
- 就職/退職をして国民年金と厚生年期に切り替わったときの疑問
- 年金滞納・未納に関する相談
- 遺族年金・障害年金の受給方法に関する悩み
など多岐に渡りました。
続いて「サ変名詞(動作・行動を表す名詞)」の頻出ワードです。
最も頻出したのは「申告」(277回)でした。これには調査期間が2月上旬という時期も影響していると思われますが、「確定申告」に関するワードが多く見られます。
ここから収集した悩みを10のクラスター(集団)に分類してさらなる一般生活者の士業に関する需要を探ってみましょう。
抽出されたのはクラスターは以下でした。
- 「確定申告」
- 「個人事業主による初めての青色申告」
- 「厚生年金/障害年金」
- 「国民保険/社会保険」
- 「医療費控除申請」
- 「父母からの相続」
- 「親もしくは夫の扶養限度額」
- 「給与と各税(所得税/住民税/消費税/法人税)」
- 「年末調整」
- 「源泉徴収」
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(関連性の高いワード同士を線でつなぎクラスターに分類されます。また左側のバーは頻度の高さを表しています)
興味深いのはマイナンバー制度に関するワードがそれほど検出されなかった点で、2016年1月段階だとマイナンバー制度は多くの一般生活者にとってそれほどリアルなテーマではないことがわかります。
また全体として、「確定申告(青色申告)」や「医療費控除」「年末調整」「相続」など税理士業務に関わる需要も見られますが、一般生活者の「税・会計」に関する悩みごとは、社会保障制度や給与から引かれる税に関するものが同じくらい存在するようです。
法律に関する士業需要調査
続いて法律に関する悩みごとで、最も頻出したワードは「会社」(51回)でした。なぜこのワードが頻出するのか細かく見たところ「一般生活者が法的な知見の需要を感じる場」として「会社」が頻出することが判明しました。
例を挙げると、「会社の民事再生法について」「社用車で事故を起こした」、「会社の同僚との人間関係トラブル」「会社の債務放棄」など悩みごとの種類も多岐に渡ります。
また「警察」(34回)がトップ5に入っていることもからも、刑事事件絡みの悩みが多く見られたのも特徴的です。
続いて頻出したサ変名詞に着目します。
「相続、請求、離婚」に関する悩みが多いことがわかります。(1位の「質問」に関しては、「質問します」という文を読み込んでいるためここでは無視します)
続いて法律に関する知識需要を10のクラスターに分類した結果です。
- 亡くなった両親からの相続
- 個人情報
- 不動産登記
- 民事訴訟
- 離婚に関わる財産および親権
- 過払い請求
- 知人の警察沙汰
- 加入している保険または保険会社とのトラブル
- 債務と土地契約に関するトラブル
- 詐欺サイトと刑事事件
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「個人情報」や「詐欺サイトによる被害回復」、「保険会社の(不払い)トラブル」をHPやブログで訴求している士業サイトはあまり見かけませんが、一般生活者の需要としては無視できない規模で存在するようです。
また士業に関する需要としては一般的な「離婚」に関しても、一般生活者側の需要は「親権と財産分与」に関することが中心となっており、「慰謝料請求」ではないことも示唆に富む結果です。
労働に関する士業需要調査
労働関連の最も頻出する名詞が「会社」(127回)というのは、ある意味当然の結果かもしれません。しかし詳細を見ると、「働く会社に対する不信/不満」の内容が多く見られました。それに伴って「給料」や「有給(休暇の取得)」というワードも頻出したようです。
サ変名詞での「仕事」(96回)も先ほどの「会社」と同様ですが、「勤務(状況)」や「残業」「退職」「給与」などもほぼ「勤務先への不信・不満」に基づいた悩みと考えてよさそうです。
続いてクラスターを10に分類した結果は以下です。
- 正社員/契約社員の雇用状況
- 有給休暇
- 休暇取得
- 休日出勤に対する賃金
- ブラック企業
- 労働組合もしくは労働基準法
- 上司への不満もしくは副業
- 今年退職をひかえている
- 女性の雇用
- 勤務状況(給与、残業、雇用形態)に関する不満
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一般生活者の不満をクラスター分析した結果、「休めない人」がキーワードとなりそうです。「有給休暇/残業」はもちろん「休日出勤」や「労働基準法」なども過剰な超過勤務=休めない状況にある一般生活者の多さを示唆しているのではないでしょうか。
通常この種の一般的なアンケートによる「会社に関する不満」調査の場合、「給与」や「職場での人間関係」が主要な不満になりますが、今回の調査では「休みたくても休めない人」が前景化したのは特徴的といえそうです。
まとめ
今回の調査で抽出された一般生活者の悩みごとや不満は、そのまま士業に対する需要となるものとならないものが含まれています。
しかし直接的に業務にならない悩みや不満もつぶさに見ていくと、社会情勢であったり社会制度の不備を背景にしているものが多く見られます。こうした社会的な課題の解決に大きく貢献できるのも士業という職業の特性ではないでしょうか。
(※今回のテキストマイニング調査では『KH Coder』を使用しました)