最近では宿泊予約サービス【Airbnb】の日本上陸により、民泊サービスと旅館業法との抵触が話題となりました。革新的なWebサービスほどこうした法的リスクにしばしば直面するものですが、【Airbnb】上陸後の動向を見ても明らかなように、規制自体が時代のニーズにマッチしておらず、自治体によってはWebサービス寄りに規制が緩和されることもあります。これを見る限り、革新的なアイデアを「法的なリスクがあるから」という理由だけで退けてしまうのは適切ではないように思えます。
では私たちは新規Webサービスを立ち上げる際、法的なリスクとどのように付き合っていけばいいのでしょうか?そこで元SE/プログラマとしての職務経験からITビジネスの世界にも詳しく、現在は某大手IT企業にて法務全般をアドバイスされている「INT法律事務所」の大倉健嗣弁護士に「新規Webサービスと法の付き合い方」について解説していただきましたので、以下にご紹介します。
リスクとコストのバランスで考える!新規Webサービスの法務
Webサービスに関わる法律は近年ますます複雑になっています。 商用インターネットサービスが始まった1990年代から20余年、個人情報保護法やプロバイダ責任制限法などが新規に制定され、さまざまな法令がインターネット上の問題に対応するように改正されてきました。Webやシステムに関する訴訟も多発し、今や「IT法」は法律の一分野として定着した感があります。
事業者が新規Webサービスを立ち上げるにあたっては、この複雑な法令に沿った法務対応をとる必要がありますが、成功するかどうか分からない段階で法務コストをかけたくないというのが正直なところでしょう。これがベンチャーやスタートアップ企業ではなおさらです。
ではミニマムの法務コストでサービスをリリースするにはどうしたらよいのでしょうか。そのコツをご紹介したいと思います。
留意すべき法律は「刑事法、行政規制、民事法」。リスクの大きさには濃淡がある
弁護士が新規Webサービスの相談を受けたときに頭に浮かぶIT分野に関連する法令は、ざっと次のとおりです。
IT分野に関連する主な法令
通信販売を行う場合 | 特定商取引法(*主に通信販売や訪問販売に関する諸ルール) |
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仮想通貨(Webマネー)を発行する場合 | 電子契約法(*電子契約における消費者救済に関する取り決めなど) |
B2Cサービス | 消費者契約法(*消費者と事業者間で交わされる契約に関する取り決めなど) |
Web広告 | 景品表示法(*広告表現に関する規制など) |
電子メールを使ったプロモーション | 特定電子メール法(*Eメール配信に関する取り決めなど) |
掲示板で権利侵害があったとき | プロバイダ責任制限法(*インターネット上で起こったトラブルの損害賠償責任制限や発信者の情報開示に関する取り決めなど) |
マッチングサイト | 出会い系サイト規制法(*出会い系サイト運営者および利用者に関するルールなど) |
電気通信サービス | 電気通信事業法などの業法 |
民泊サービス(Airbnbなど) | 旅館業法 |
自動車配車サービス運転(Uberなど) | 道路運送法の行政規制 |
文章・画像・動画・プログラムなどの使用 | 著作権、特許権、サービスの商標権 |
このほか法令以外でも規則やガイドライン等を省庁が定めていることや、業界団体が定めた自主ガイドラインや公正競争規約等があります。またこれ以外にも民商法その他の一般的な法令も適用されますので、検討しなければならない法令は意外と多いのです。
しかし大事なことは、これらの法令群はリスクの大きな順番に「刑事法>行政規制>民事法」の3つの類型に分けることができるということ。つまり重要度には濃淡があるということです。
まず法令上「犯罪」とされる行為は、当然ながら絶対に行うべきではありません。一例として、オンラインゲームの「ガチャ」のように課金をしたらランダムに獲得アイテムが決定されるような仕組みは、賭博罪(刑法185条)に該当しないように留意しなければなりません。
また行政規制に違反した場合、行政庁からの命令を受け、さらにその命令に違反した場合に刑罰が科されるという仕組みが行政規制によく見られます。この類型は最終的に刑罰が待っているという点で、十分留意すべき類型といえます。例えば、個人情報の取り扱いについて主務大臣から措置命令を受けたにもかかわらず、それに違反した場合には、事業者に刑罰が科される可能性があります(個人情報保護法56条)。
これに対し民事法の範囲では基本的にお金(損害賠償)で解決することになりますので、金銭リスクが覚悟できるのであれば、リスクテイクしてもよいということになります。ただし、民事法領域でも「これはやっちゃだめ」というのがあります。例えば著作権を侵害した場合、サービス全体が差し止められるリスクが生じますが(著作権法112条)、この種のリスクは通常受容できないでしょう。
リスクとコストのバランスが重要
ここまでのお話でピンとくる方もいらっしゃると思いますが、要するにWebサービス立ち上げに伴う法的検討は、いわゆる「リスクアプローチ」の手法をとればよいのです。
一般的なリスク管理手法では、
- リスクの評価と優先順位付け
- リスクへの対応方法(受容、回避、低減、移転)の決定
- 具体的対応策の導入
という手順を踏みますが、この手法を法務リスクについて応用すればよいということです。
ベンチャーやスタートアップ企業が最小限のコストで適法性検討を行うとすれば、一案として、まずIT専門弁護士にリスクの評価と優先順位付け(リスクアセスメント)を行ってもらってはいかがでしょうか。
例えば1時間ほどの法律相談の中で法務リスクについて大まかな弁護士の所感を聞き、その中で出てきた比較的大きなリスクについては追加コストがかかっても確実にクリアするようにし、それ以外のリスクについては予算との兼ね合いで対応を後回しにする、という方法が考えられます。これ以外にもさまざまな方法があると思いますが、いずれにせよリスクとコストのバランスをとりながら費用対効果の高い法務リスク管理を行うことが重要です。
まとめ(今回の解説の要点)
- Webサービスをとりまく法令は複雑化しているが、リスクの大きさという点では濃淡がある。
- 新規Webサービスの適法性検討では、リスクアプローチをとる。
- ベンチャーやスタートアップ企業は、法務リスクのアセスメントをしたうえで、リスクとコストとのバランスを考慮してその後の対応を判断するとよい。
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