外国人技能実習制度は、入管申請取次業務のほか製造業、建設業に精通しておられる行政書士の方であればよくご存知だと思います。私は当時、協同組合の設立業務において外国人研修制度(当時の呼称)のことを知り、その後実際に業務で関わることになりました。
かつての外国人研修制度では、研修生が労働者とみなされず過酷な条件で労働を強いられたり不適切な管理体制が露呈したり、さまざまなトラブルや事件が起きるたびに社会問題として提起されてきました。また技能実習生の行方不明事案もあるということは周知のとおりです。
こういった経緯から、外国人技能実習制度についてネガティブなイメージをお持ちの方も多いと思います。また現在では昨年安倍政権は成長戦略の一環として「外国人技能実習制度の枠を介護、家事労働に拡大」、「最長滞在期間を3年→5年」に変更する方針を打ち出しています。これを「移民政策」として批判の声も上がっています。
そのような中でも私が当時、協同組合の設立や外国人研修制度に関わることにポジティブなイメージを持てたのは、外国人研修生の熱意と真摯に外国人研修制度に取り組む協同組合関係者の存在を実際に知ったからでした。この記事ではそんなあまり知られていない実際に私が見聞きした現場のドラマをご紹介したいと思います。
外国人技能実習生は妻₍夫₎と子を祖国に残してきている|【ドラマ1】
あまり報道されないことですが、実際の外国人技能実習生には既婚者も多いです。外国人技能実習生は最長3年間、日本で技能実習を受けることになります。長期間祖国を離れることになりますので、私もはじめのうちは「独身の方」ばかりだろうと思い込んでいました。ところがもちろん独身の方もいるのですが、男性であれば妻と子、女性であれば夫と子を祖国に残して技能実習で来日する方も少なくないのです。この事実を知ったときに私は心を強く打たれました。
協同組合や受け入れ企業などが技能実習生の日本での生活をサポートしフォローしていくことなど事前説明を受けていたとしても、3年間も家族と離れて海外に行く決断は簡単にできるものではないと思います。
協同組合の職員が片時も携帯電話を手放せない理由|【ドラマ2】
ドラマは技能実習生側だけにあるわけではありません。数年前の話ですが、協同組合の役員の方から「うちの職員(現地の言葉が話せる方)は、研修生や技能実習生の悩みや相談ごとなどを聞くことが多くて、夜も休日も携帯電話が手放せないんだ」と聞いたことがあります。
技能実習生は日中は受け入れ企業で技能実習を受けていますから、技能実習生が電話で相談できるのは夜や休日しかありません。技能実習生をケアする立場の職員からすれば夜や休日はコミュニケーションをとれる貴重な時間帯です。夜も休日も時間を割いて相談に乗ってくれる職員に技能実習生の方も安心して頼っていたのではないでしょうか。
技能実習生の家族のために現地にあいさつに行く協同組合代表理事|【ドラマ3】
技能実習生は入国前に実技試験や面接などを行って選抜されています。ある協同組合の代表理事によると「選抜した研修生(当時)の現地の家族に『3年間お預かりします』とあいさつに行くんだ」と話されていました。また、「日本だったら番地で場所がわかるけど、現地は番地がないところもあって家を探すのが大変だったよ」とも言われていました。
これもほとんど報道されない素敵なドラマですよね。技能実習生をケアする立場にある組合も現地に残された家族とも良好な関係を築いていることもあるのです。
行政書士は外国人技能実習制度について不正行為を防止する助言・アドバイスを
こういった外国人技能実習制度の質の向上の努力を続ける監理団体が存在する一方で、残念ながら不正行為を犯し、厳しい行政処分をうける監理団体や受け入れ企業が存在するのも事実でしょう。
2013年度の技能実習2号の行方不明者数は、2822人。2012年度のほぼ倍近くになっています。この背景には、不正行為を犯す受け入れ企業や不正行為を黙認する監理団体が潜在しているのではないかと思えてなりません。
そんな中、今年3月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」及び「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」が閣議にて決定されました。
この決定において興味深いのが、技能実習生ごとに作成する技能実習計画が認定制となり、実習実施者(受け入れ企業のこと)については届出制、監理団体については許可制とする旨が盛り込まれていることです。今後、これらの許認可・届出業務と関連して行政書士は入管法令などのコンプライアンス監修の依頼を受ける可能性を十分に秘めています。
もし外国人技能実習制度に関わる団体や企業と接する機会があれば、許認可・届出制への動きがあることや、監理団体が許可を受けるためには今のうちから不正行為の防止対策をより強化するよう助言・アドバイスをしていくことで、技能実習制度に関する行政書士業務の依頼につながる可能性は高くなるでしょう。
外国人技能実習制度と行政書士業務のおさらい
最後に外国人技能実習制度に関連する行政書士業務についておさらいしておきます。外国人技能実習制度に関連する行政書士業務は、以下の2つがあります。
- 協同組合の設立や運営に関する業務
- 在留資格「技能実習」に関する入管申請取次業務
また、JITCO(公益財団法人国際研修協力機構)主催の「法的保護情報講師養成セミナー」を受講し、入国した技能実習生に対し入管法令、労働関係法令、不正行為への対応などを教える外部講師業務を引き受けている方もおられます。
行政書士業務ともなる協同組合などの設立や運営に関しては各都道府県に所在する中小企業団体中央会が、技能実習生の入管申請取次業務や法的保護情報外部講師についてはJITCOが助言・サポートをしています。必要な場合は中小企業団体中央会やJITCOから指導をいただくことで、行政書士業務の質の向上につながります。
協同組合については最寄りの中小企業団体中央会などにお問い合わせください。また、外国人技能実習制度の詳細については、JITCOのWebサイトを参照にされてください。
ITC代表 石盛丈博氏
(2002年~2010年まで行政書士登録)
今回のまとめ
- 外国人技能実習生のなかには既婚者もいて相当な覚悟で来日されている
- 外国人技能実習制度を支えているのは真摯に熱意をもって取り組む監理団体
- 今後技能実習制度は許認可・届出制となる可能性があり、行政書士業務が発生する可能性も