「誠心誠意いいサービスを提供し続けていれば、お客さんは勝手についてくる」というのは誰しもがうなずくところですが、集客に苦労されたことがある方にとっては、どこかとらえどころのない言葉のように響く面もあるのではないでしょうか?
というのも日本のように市場が成熟した国だと、商品やサービスの品質がいいのは「当たり前」になってしまい、「それ以上」を顧客から求められる局面も少なくありません。
それは資格保有者が増加し続けている「士業」という業界でも似たようなところがあり、潜在的な顧客に対して数々の士業事務所と切り分けながら、自身の士業事務所をどうアピールできるかはより大きな問題となっていきそうです。
そこで今回は「士業は一般生活者にどのくらい/どのように認知されているか?」をテーマにアンケート調査を行いました。士業事務所の認知度向上ひいてはブランディングを考える上で、現在の「士業」全体の立ち位置を確認しておくことは不可欠なことです。
「士業」認知状況に関するアンケート調査
まずは手はじめに純粋想起できる士業事務所/個人名があるかを調査しました。「純粋想起」とは、ブランド認知度調査などでお馴染みの言葉ですが、「スポーツシューズのメーカーと言えば?」や「カップ麺と言えば?」という質問に対して、なんら手がかりのない状態で一般消費者の頭になんらかのブランド名/商品名が思い浮かぶことを意味します。
もちろんこの純粋想起できるブランドの認知度は非常に高いと言え、こうした認知が進んだブランドは消費者のマインドシェア(売上ベースの市場シェアではなく、消費者の認知シェアのこと)を大きく占めていると考えられます。
結果は下記の通りでした。
Q.純粋想起できる士業事務所名もしくは個人名がある?(自由回答文)
ある・・・81.6%
(n=217)
81.6%の回答者がなんらかの士業事務所/個人名を思い浮かべることができました。ここからどのような士業事務所/個人名が純粋想起されているのかを調査したところ、得票数の多かった士業事務所/個人名は下記の結果となりました。
■純粋想起された士業事務所/個人名(得票数順)
- アディーレ法律事務所・・・46票
- 橋下徹弁護士・・・30票
- 北村春男弁護士・・・26票
- 大渕愛子弁護士・・・12票
- 八代英輝弁護士・・・8票
(複数回答)
これらを見ると、いずれも「テレビ」というキーワードが思い浮かびます。アディーレ法律事務所はテレビCMをはじめ、所属弁護士のマスメディア出演が目立ちます。またその他の弁護士の方も某バラエティ番組出演をきっかけに人気を博した弁護士たちです。
マスメディアの露出度の高さでは「橋下徹弁護士」が一番高そうですが、今回の結果を見ると昨今では元大阪府知事・市長の肩書のほうがインパクトが強くなってしまったのかもしれませんね。
また全体として、純粋想起される士業の職種では弁護士がずば抜けており、税理士や司法書士など他士業の名前を挙げる回答者はごく少数にとどまりました。
次に、回答範囲を一般生活者の生活圏内に存在する士業事務所/個人名に限定して調査しました。
Q.生活圏内で純粋想起できる士業事務所名もしくは個人名がある?
ある・・・47.5%
(n=217)
「ない」と答えた回答が52.5%で過半数となりました。先ほどの全国版の18.4%から「人にの士業事務所/個人名の名前を挙げられない」回答者が約3倍ほど増えたことになります。
この結果はテレビの存在感の大きさがわかる一方で、約半数の回答者にとって士業ニーズが生じたときに「0ベース」で依頼先を探している状況が推測されます。
一方で、純粋想起されている残り半数の士業事務所/個人名を詳しく見ると、その地域に根ざした士業事務所/個人名が多く想起されていました。こうした士業事務所/個人名はニーズが発生したときにまず思い起こされる名前ですので、マーケティング面ではかなり優位性があると言えるでしょう。
またこうした固有の「ブランドネーム」の強みに関しては、前回の士業ホームページのCTR(クリック率)調査をご参考ください。
次に士業ニーズを感じたときの、一般生活者の行動調査を行いました。
Q.士業ニーズを感じたときの情報収集方法は?
友人・知人・家族の知見・・・27.5%
ネット上の口コミ・レビューを探す・・・27.3%
士業事務所に資料請求・・・6.3%
(複数回答)
最も多かったのが「インターネット検索(39.0%)」ですので、WEB上でニーズを抱えた
潜在利用者層とコンタクトできるorできないはファーストコンタクトとなる「接点」として意義が大きいことがわかります。
また「ネット上の口コミ・レビューを探す(27.3%)」というのもWEB上で行われる情報収集行動ですが、2016年1月現在では士業に関する口コミが大規模に集まっている目立ったポータルサイトはまだありません。口コミ・レビュー情報をWEB上で探してみると、「掲示板サイト」への書き込みや「就職・転職サイト」上で元従業員による書き込みがヒットします。
自身が運営する士業事務所が第三者によってどのような書き込みをされているのかは一度チェックしておく必要がありそうです。もしそれが根拠ない誹謗・中傷であった場合、運営者に書き込みの削除を求めることも必要となるでしょう。
次に、一般生活者は収集したどの情報を信頼するのかについて調査しました。
Q.収集した情報の中で最も信頼するものは?
ネット上の口コミ・・・30.4%
ホームページに記載されている情報・・・11.1%
マスメディア広告・・・1.4%
インターネット広告・・・0.9%
(n=217)
最も信頼度が高かったのは「友人・知人・家族からの紹介(56.2%)」でした。これはさまざまな消費者行動に関する調査と一致するところで、やはり自分の知っている人(リアルなネットワーク)からの評価・紹介は最も信頼度が高い結果となりました。
このリアルなネットワークからのレピュテーション(評価)を「広告効果」としてとらえたとき、最も優れている点は「広告費用が1円も発生しない」という点です。もちろん顧客からいい口コミをもらい、その口コミが拡散・流通していくためには中長期的な期間が必要となりますが、地道に顧客の期待以上の結果を出すことが一番の近道となりそうです。
また先ほどの項目とも重複しますが、「ネット上の口コミ」を最も信頼する回答者が30.4%いるのは看過できません。自分の事務所がネット上でどのようなレピュテーションを得ているかは定期的にチェックしておくのがいいでしょう。
最後に、一般生活者が士業従事者と接触する機会が多いものを調べました。
Q.士業と最もよく接触する機会は?
業務上のつながり・・・18.4%
広告・・・9.7%
ホームページ・・・8.3%
セミナー・イベント・・・6.5%
SNS・・・3.7%
(n=217)
認知度の項目でも触れましたが、やはりここでもテレビなど「マスメディア」の存在感は大きいようです。ですが、すべての士業の方がマスメディアに出演するというのは現実的ではありません。
一方で「ホームページ(8.3%)」や「SNS(3.7%)」というWEB上の接点ですが、こちらもほぼ接触できていない厳しい結果となりました。しかし先述の「情報収集方法」の項目では「インターネット検索」が最も多い情報収集方法となっていたことをあわせて考えると、士業の方によって運営されるホームページやSNSが潜在的な顧客の情報ニーズとどれだけマッチしているか、は再考する価値がありそうです。
そもそも士業という専門性の高い業務上、マス・生活者に向けた情報発信を狙うのは無理があります。例えば「相続税」に関するノウハウに興味を示す10代の若者はかなり限定されるでしょう。ですが先ほどの調査結果を見ると「ローカル(地域)」で純粋想起される存在であれば、一般生活者の半数のマインドシェアを占めたも同じことになります。
そのために莫大な広告費を傾けるのも一手ですが、オンライン/オフラインの双方から地域社会へ「参加」していくのも有効な手立てとなるのではないでしょうか?
おわりに
いずれにしても認知度の問題は一朝一夕のうちに解決できる問題ではありません。もちろんマスメディアに露出できれば瞬発的に認知度は上がるかもしれませんが、それも瞬間風速的なものに終わってしまっては、あまり意味がありません。
重要なのは「持続的」に認知度向上という課題と取り組むことであり、また「顧客、従業員、同業者、銀行」など各ステークホルダーとの連携を全方位的に行っていくことです。
中長期的な視点で、どっしりと腰をすえて取り組んでいきましょう。
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