唐突ですが、弁護士と相談者はどうすれば「出会える」ことができるのでしょうか?
この一見簡単に答えられそうな問いには意外とマーケティングの本質的な部分が含まれているものです。例えば過去に日弁連が行った「中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書」によると、
「特に弁護士に相談すべき事項がないから(74.8%)」の回答が7割超にのぼりましたが、ここには「本来弁護士に相談すべき案件なのに、弁護士ニーズとして認識されていない」という認知に関する問題が含まれています。
また上記は中小企業を対象にした調査結果ですが、おそらく一般生活者を対象に調査を行ってもあまり変わらない結果になるのではないでしょうか?
こうした中、弁護士に無料でチャット相談ができる【弁護士トーク】というスマートフォンアプリが人気を呼んでいます。
同アプリではその名の通り、一般ユーザーは匿名のもと弁護士に法律に関するカジュアルな相談が行え、相談できるカテゴリも「交通事故」から「企業法務」、「マイナンバー」にいたるまで多岐に渡っています。
そこで今回は【弁護士トーク】を運営する「弁護士トーク株式会社」大本康志代表取締役に弁護士側の同アプリ活用法などについてお聞きしました。
【弁護士トーク】とは?
――まずは【弁護士トーク】というサービスを始められたきっかけを教えてください。
私は10年間弁護士として多くの法律相談を受けてきましたが、世の中の人たちは弁護士という職業は知っているけれど、「弁護士をどのように利用したらよいか?」という根本的な点が理解されていないと思いました。
そこでわたしは皆さんに「いつでも」「気軽に」「相談できる」環境を作っていこうと決意しました。この決意を実現するため、2015年10月9日(トークの日)に【弁護士トーク】アプリを作りあげサービス開始することにしました。
――現在【弁護士トーク】では、どのような相談内容やユーザーが多いのでしょうか?
スマートフォンアプリを用いてチャットで法律相談を受けるという手軽さもあり、20代から40代の若年層利用者が多く、通勤・帰宅時や休憩時間などのスキマ時間に、離婚問題や借金問題のほか労働問題(セクハラ パワハラ)などの相談を多く受けております。
また私もびっくりしましたのですが、8歳の男の子から「先生が嫌いです」という悩みを持ちかけられたこともありました(笑)。
【弁護士トーク】を利用する弁護士側のメリット
―― 一方で【弁護士トーク】に登録している弁護士側はどのようなメリットがあるのでしょうか?
まず利用者目線で弁護士へのアクセスを簡単にすることで、利用者がそれまで抱いていた弁護士のイメージを変えたいという思いがあります。すなわち従前の「固い」「高い」「融通が利かない」イメージの弁護士を、もっとカジュアルに気楽にアクセスできるイメージにチェンジできれば、もっともっと弁護士を利用しようというマインドに変化するのではないかという思いがあります。
そのようなマインドの変化が浸透してくれば、弁護士としての存在価値を利用したことになりますし、回りまわって弁護士業界にとっても大きなメリットになると考えています。
またもっと短期的に見た場合、弁護士としてもそのスキマ時間を活用することで新しい相談者を開拓できます。こうした点で弁護士の「マーケティング活動」につながるということもメリットのひとつとなるはずです。
さらにこれはサービスを提供してみて初めてわかったことですが、【弁護士トーク】は電話では発生しにくい「新しい相談者とのつながりの機会としての場」になりつつあるのではないかと感じています。
つまり相談者は法律問題にいたらない問題であっても悩みを抱えている場合があります。そこにちょっとした相談相手として弁護士がいるということが常態化すれば、【弁護士トーク】というサービスを通じたつながりから信頼関係を築くことができます。そのため今後万一交通事故などのトラブルに巻き込まれたとき、すぐに弁護士にコネクトできるということになります。
このようにサービスを通じて「常に」相談者とつながっていること――これも大きなメリットになっていくと考えています。
――日弁連のアンケート調査でも、一般生活者と弁護士間にある「ミスコミュニケーション」が指摘されていますが、【弁護士トーク】はその解消に向けてどのような役割を担っていくのでしょうか?
先程も述べましたが、弁護士には「近づきがたく、身構えてしまう存在」というようなマイナスイメージがあり、それが弁護士に相談するという行動を阻害させる要因の一つとなってしまっています。
そこで【弁護士トーク】は、日常的に使っているスマートフォンに着目し、「チャット」という日常的な手法を用いることで利用者の心理的な負担を下げております。
また、契約前の法律相談の段階で無料で「チャット」するので、面談前にすでに一定のコミュニケーションが行われていることになります。このことで自分とソリが合わない弁護士とは、そもそも面談に至らないと考えられます。
このことから【弁護士トーク】を利用してから実際の依頼を受ける場合には、双方のミスコミュニケーションが生まれにくい環境がすでに創出されていると言えます。そのため【弁護士トーク】はミスコミュニケーション解消の効果が高いと考えています。
――【弁護士トーク】はサービス特性上、一般生活者と弁護士をマッチングさせるプラットフォーム的な側面も必ず出てくると思いますが、そうした「プラットフォーム」としての機能を存分に果たしていくような構想はありますか?
プラットフォームとしての機能に目を向けると、精度の高いマッチング機能を有する必要があります。【弁護士トーク】では、特定分野に強い弁護士が複数スマホ画面上に登場しますので、利用者は自分に合った弁護士を実際のチャットを通じて吟味する機会を得られます。それによりマッチングとしてのプラットフォームの機能も果たしていくことになるでしょう。
また追加機能ではありますが、今後はスマートフォンのGPS機能(※)を利用し相談者の位置情報から法律事務所の距離を自動計測し、相談者が現在いる場所からたとえば半径100Kmにある弁護士のみ表示されるシステムを導入するなど、相談者と弁護士の物理的な距離を考慮したプラットフォームを作り上げていくことで、よりマッチングしやすいプラットフォームとなっていく予定です。
(※ユーザーの位置情報を取得できる機能のこと:編集註)
――そもそも【弁護士トーク】によって、「弁護士がもっと身近になった世界」ではどのような社会的な利益がもたらされるのでしょうか?
小さなトラブルの段階から弁護士が関わることで大きな問題に発展するまえに、適切なアドバイスを得ることになります。そのため紛争が拡大することが少なくなり、結果としてよりよい社会の発展の形成につながると考えています。
現在いろいろな法的な悩み・トラブルに巻き込まれている人の中で、弁護士にリーチできている割合は20%にも満たないというデータがあります。つまり法的トラブルに80%以上の人は「泣き寝入り」などを強いられている状況にあるといってよいと思います。
このような状況下において、さまざまなトラブルに直面したすべての人がもっと気軽にもっとカンタンに弁護士という法律の専門家にタイムリーにアクセスできる環境があれば、本当に困っている80%の方も正当な自己の権利を主張できる機会が確保されるのではないかと思います。この社会的ベネフィットは計り知れないものがあるのではないでしょうか。
――最後に、弁護士の方に向けて【弁護士トーク】の魅力などお願いいたします。
【弁護士トーク】アプリのインストール数が大変順調な伸びを示しております。プロモーション開始後、3週間で2万ダウンロード以上を獲得しました。
しかし、現在スマートフォンアプリを利用して本物の弁護士に法律相談ができるというサービスはまだまだ一般生活者に浸透していない段階だと思っています。
ただ【弁護士トーク】アプリの可能性について、すでに多くのメディアに注目いただいている状況となっており、対応する弁護士が足りないという状況にもなってきています。
当社としては、今後【弁護士トーク】は弁護士と相談者をつなぐ「スタンダードなマッチングツール(出会いの場)」となることを確信しています。そうであれば弊社アプリに早い段階にご登録いただくことでアプリ内の地位獲得(上位表示など)に資することにつらなります。ぜひ弁護士の皆様は本アプリの早期のご登録・ご活用をお願いします。
インタビューを終えて
やや商業的な見方になってしまいますが、弁護士業のように高い専門性が必要となるサービスでは、その専門性ゆえに一般生活者との間にどうしても情報量の「アンバランス」な状況が出現してしまいます。
こうした「情報量のアンバランスさ」は、一般生活者にとってどの弁護士が適切な依頼先なのかを選択しにくくしてしまうため、サービス利用自体を「敬遠する」という事態を引き起こすことがあります。
こうした点から【弁護士トーク】のような「一般生活者=弁護士間」をつなぐマッチングの場が「バランスの悪さ」を解消するために果たせることは多いのではないでしょうか。
【弁護士トーク】がもたらすものもの――それは弁護士と一般生活者の「新しい関係」なのかもしれません。