ここ近年“はたらくかたち”というものがまた変わってきたと感じています。一昔前まで本当にめずらしかった学生起業家や若手起業家も思っている以上に多いようですし、行政などもスタートアップカフェや助成金施策で積極的に起業支援を展開しているようです。
クラウドソーシング市場も昨年あたりから今年にかけて一気に拡大し、これまで子育てや家庭の都合で働けなかった主婦の方も生活やスキルに合わせた働き方ができるようになってきました。SOHOも進化して、個人事業主やフリーランスがシェアするコワーキングスペースという新しい働く場所も各地で増えてきた模様です。
(グラフ引用:矢野経済研究所『クラウドソーシングサービス市場に関する調査結果 2014』)
さて、社内ベンチャーや大手・中堅企業による出資で設立された新規事業会社でないかぎり、多くの経営者にとって起業時は、士業に頼らなくても事業運営と経営の両立ができます。しかしながら、事業がそれなりに軌道に乗って拡大していくと、社員も増え、取引額も増え、経営者ひとりの手には負えなくなってきます。多忙を極めるようになった経営者の事業運営・経営をサポートするために、各分野のスペシャリストとして士業が存在しているといっても過言ではありません。
そこでまずは、各士業はどのような事業運営・経営上の事案において経営者と関わっていくのかを簡単にですが、おさらいすることにします。
「経営者士業必要論」とは?
会社設立のナビゲーター 司法書士
司法書士は、法務局に提出する不動産や会社・法人の登記申請を代行してくれます。個人事業主から法人成りをしようとするときに相談をすれば設立完了までナビゲートをしてくれます。設立以外にも従たる事務所の設置、役員の交代や任期満了、資本金の変動などお願いしないといけなくなる場面は多々出てきます。
税務のスペシャリスト 税理士
会社は、毎事業年度終了後に決算を行い、個人事業主は、毎年2~3月にかけて確定申告を行わなければなりません。税制度は奥深いもので、日頃から業務として携わっている税理士の先生にお願いすると、払うべき税金、払う必要のない税金をきちんと仕分けてくれます。
行政担当者と経営者の橋渡し役 行政書士
建設業をはじめ何らかの事業を始めるためには行政庁の許認可や届け出が必要となる場合があります。申請書だけではなく図面や証明書など多数の添付書類を求められることもしばしば。ただ、提出すれば良いのではなく、提出までに行政担当者とアポイントを取って事前協議を行い、折衝を重ねていきます。時間も手間もかかるため多忙な経営者の方は行政書士に依頼をされます。
各種保険と会社の助成金アドバイザー 社会保険労務士
社会保険労務士は、雇用保険や労災保険といった労働保険、厚生年金など社会保険の諸手続きなどを代行してくれるほか、毎月の給与計算や賃金台帳の調製、必要に応じて就業規則の作成や労働局が拠出する助成金などのアドバイスや代行をしてくれます。
また、社員やアルバイトなどとの間で、図らずも労働関係上で争いが起こった場合に裁判外紛争解決手続制度を利用するときには“特定社会保険労務士”であれば、会社の代理人として擁立することができます。
会社が事業や研究で産み出した財産に権利を付す専門家 弁理士
事業や研究の成果として産み出したこれまでにない技術やノウハウ・アイデア、そこから生まれた商品やデザイン・ブランド名などは、会社にとってかけがえのない財産です。これを他社や第三者に模倣・利用されないように主張する権利を産業財産権といいます。産業財産権を確立するために特許・実用新案・意匠・商標などを特許庁に出願する手続きを代行してくれるのが弁理士です。
会社の法律監修者となれる 弁護士
会社が行う活動全般において違法性がないかの確認やコンプライアンスの助言・アドバイスをしてくれるほか、会社が相手方と法律上、争いが生じたときに弁護をしてくれます。
人もそうなのですが、会社も日々の活動は、常に法律行為(取引や決済など)であることが多いため、継続して包括的に業務を行う顧問契約をされる場合も多いようです。
会社に必要不可欠な士業はほかにも
土地家屋調査士は、会社が不動産所有をしていれば、所有者としてその土地の筆界を確認したい場合などに必要な専門家です。また海事代理士は、会社で船舶を所有したときなど船舶の登記や登録などを代行してくれます。
経営者にとっては安心? 顧問契約について
弁護士や税理士、社会保険労務士など日常的にサポート業務が発生する場合などは、事務所によっては顧問契約の用意がある場合があります。士業側からはなかなか案内しにくい場合がありますので、一度依頼をして信頼関係が構築できた際には、クライアントのほうから話を持ち出していくのがスムーズでしょう。
経営者が士業に求める3つの力は、調査力と提案力そして行動力
私の経験上の話なのですが、経営者の周囲には少なからず良くも悪くも仕事に関連する噂や憶測が常に飛び交っています。なかには真実もあればデマもあります。私は、複数のクライアント様から附帯業務として、その真偽を行政庁や関係各所に確認し調査報告する業務も引き受けていました。これは、紛れもなくクライアント様からのニーズでした。
また、士業の業務は、法を根拠とするものであり、なかには法に抵触して不可能な事案がどうしても出てきます。そのようなときに軌道修正をして「できる方法」があれば、こちらから提案(助言・アドバイス)するのも大切です。また、今の時代、WEBで「こういう業務ができる」と提案し集客する力も必要です。提案をさせていただき採用され上手くいったときは、やはり嬉しかったです。
経営者になる方というのは基本的に行動力がありフットワークが軽いものです。ゆえに「経営者のサポートを行う士業の先生方も同じ歩幅で業務を行う」ことで、経営者といい関係を築けるのではないかと思います。
もちろん先生方の多くは事務所代表であり“経営者”ですので、この3つは心得ておられると思います。
これからお伝えしていきたい「士業と経営者」
今回は経営者と仕事上関わりの強い事案について、士業別に概要をおさらいしました。今後の展望ですが、より具体的にもっとタイムリーな「経営者と士業」の関係をお伝えしていければと思っています。
■著者紹介:ITC代表 石盛丈博氏
(2002年~2010年まで行政書士登録)
まとめ
- 経営者には士業が必要な場面が多々ある。
- 事務所によっては顧問契約の用意がある場合がある。
- 経営者が求める士業の3つの力は、調査力・提案力・行動力